【2022/03/24の記事】大阪カジノでオリックス、MGMと大阪府市が交わした協定書の全文入手

2022/03/24

MGMブランドの世界展開。写真はMGMグランド・ラスベガス

昨年12月に大阪市松井一郎市長は土壌汚染、液状化、地中埋設物など地盤に問題が生じ、土地所有者として責任があると、790億円の支出を決めた。現在、最も懸念されているのが、土地課題が判明した上、新型コロナウイルス感染拡大で観光客が激減するなど不透明な経済情勢で、大阪IR社が本当に事業者として開業するのか。撤退する可能性はないかという点だ。

IRを運営する事業者に決定しているのは、日本のオリックスとカジノ大手のMGMリゾーツ・インターナショナル(米国)が合弁で設立した大阪IR株式会社だ。大阪IR社は今年2月22日に大阪府大阪市と<大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書>を締結している。

大阪府大阪市はホームページでその内容の「概要」としてA4サイズで2ページ分のみを公開しているが、AERAdot.は協定書全文43ページを入手した。

協定書にはIRの<事業日程>として以下のように記している。

大阪市会への付議(認定申請の同意) 2022年2・3月頃>
大阪府議会への付議(認定申請) 2022年2・3月頃>
<区域整備計画の認定 国土交通大臣 2022年秋頃>
<事業用地定期借地権設定契約の締結 2022年冬頃>

などの手順が細かく記され<遵守するもの>として、原則、変更できないとされている。

しかし、協定書の第4条には、<本件土地等について本基本協定の締結時における通常の想定を超える地中障害物若しくは地質障害の存在が判明>

新型コロナウイルス感染症の再流行その他SPC(大阪IR社)又は設置運営事業予定者等のいずれの責めにも帰すべからざる重大な事由により、本事業日程の変更が必要になったことを主たる理由>という場合、3者間でIR事業の日程変更、開業の延長などの協議ができるとなっている。

 

IR計画の「撤退」に言及し、動揺広がる

わかりやすく説明すると、土地課題、コロナなど想定外のことが生じた場合には計画の変更などの対応を認めるという意味だ。その中に「撤退」も含まれるのではないかという疑念が生じている。

3月16日に大阪市議会で参考人招致されたのは、大阪IR社の社長でもあるオリックスの高橋豊典氏とMGMのエドワード・バウワーズ氏。

山中智子市議(共産)は「問題が起こった時、事業の進捗が困難と表明することもあるのか」とIRからの撤退の可能性を質問した。

高橋氏は「1兆円の投資をしており、一つ一つ課題を解決していく。民間事業者として大切なことだ。(問題は)府市と相談していく。可能性というのは低いかなと思いますが、あるかなしやというご質問については、あるかもしれません」との見解を示した。

3月末をめどに大阪府議会と大阪市議会でIRの区域整備計画案が議決される見込みだ。可決となると、次のステップ、4月末に国に認定の申請に移行する。

「決議を目前に控え、高橋氏が撤退に言及したことで、府と市に大きな動揺が広がっている」(大阪府幹部)

それほどIR計画には課題が山積している裏返しといえる。IR計画の土地は大阪市が大阪IRに定期借地権として貸し出すが、その課題は協定書の中でも液状化などの「土地問題」と「コロナ」が理由としてあげられている。

そして協定書の第13条の2では、土地課題についてさらに細かく明記されている。

<本件土地に係る地中障害物の撤去、土壌汚染対策及び液状化対策を(大阪IR社が)自ら実施するものとし、大阪市は、当該土地課題対策の実施に実務上合理的な範囲内で最大限協力>とある。

つまり、液状化など土壌汚染が生じた場合、大阪IR社が解決すると規定されている。だが、大阪市は条文に反するような790億円の負担を実質的に決めている。

その根拠となったのは協定書にある<土地課題対策費に要する費用負担については2022年2月及び3月開催の市会による債務負担行為の議決が行われることを条件として、市が合理的に判断する範囲で当該費用を負担する>という記載によるものだ。

 

「協定の解除」の項目に書かれた記述
IR問題を追及してきた、川嶋広稔市議(自民)はこう指摘する。

「この協定書を読むと、事業者の大阪IR社に有利な内容が多く盛り込まれていると感じる。コロナの感染拡大は世界的なもので、大阪のIR計画も当初はいくつものグループが手を挙げたが、最後は大阪IR社だけ。手を出さなかったのは当然、コロナの感染拡大で先行きが見通せないという不安要素があったから。それがコロナの状況次第で撤退も認めるような内容だ。また、土地課題対策費については、大阪市からは『790億円が上限』と説明を受けたが、それ以上の税金負担になることも考えられる」

3月16日の参考人招致で、バウワーズ氏は、土地課題問題について「地盤沈下している可能性がある」と指摘した。

第19条にある「本基本協定の解除」にある<開発>という項目には、

<設置運営事業の現実、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下液状化、土壌汚染、汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれに限らない)が生じていないこと、又は生じる恐れがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者(大阪市)は、当該事象による悪影響の発生の防止を確実とするよう設置運営事業予定者(大阪IR社)と協力し一定の適切な措置を講じること>と記されていた。

「それまでは<土地課題>として液状化、土壌汚染、地中障害物の3つしか書かれていなかったが、地盤沈下などにまで範囲を広げている」(前出の川嶋市議)

大阪市が負担する790億円は3つに対応したもので地盤沈下などの費用は含まれていないという。

また<投資リターン>という記述も気になる。大阪IR社の経営がうまくいかなければ、大阪市が手助けするのかとの印象も与えかねない。

3月16日の大阪市議会で質問に立った自民党の多賀谷俊史市議はこう危惧する。

大阪市はこれまで市議会や、市民へのIR説明資料で、『液状化はしにくい地盤』と何年も前から説明していた。それが昨年1月に大阪IR社が調査して、大阪市液状化するので改善をと伝えると、数カ月で松井市長が790億円の税負担を決めている。大阪市が大阪IR社の言いなりになっている点が多々あります」

 

金投入が膨らむ危険

協定書で<合理的な理由>があれば大阪市が費用負担するという記述についてもこう懸念する。

地盤沈下をわざわざ大阪市議会で大阪IR社が持ち出したことで、790億円以上の負担を求めてくるのではないかと危惧しています。維新の肝いりのIR計画はコロナの影響で大阪IR社しか手をあげなかった。そこに頼るしかないのが現実なので、拒否はできないんじゃないですか」(同前)

一方、参考人招致を受けて松井市長は17日の記者会見でこう反論した。

「市議会でもこれまで事業者(大阪IR社)のIR経済効果試算に疑念がある、大阪府市の納付金がコロナで大丈夫かといろいろ疑問点もあり、説明があってよかった。大阪市は土地所有者として、安全安心の土地提供するためアッパー(負担上限)が790億円。地盤沈下は、土地の自然由来なので事業者(大阪IR社)の負担。それが大阪市の埋め立てた土地に起因するものと、根拠のあるものがでてくればその時に大阪市の負担は考える」

土地課題、コロナと不透明な中、大阪市議会、大阪府議会で議決を得てIRは次のステップに進むことができるのか?